山童 (やまわろ)

山童(やまわろ)

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怪奇・妖怪画像データベースより
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiGazouCard/U426_nichibunken_0052_0018_0000.html

九州地方の妖怪

三、四歳の子どもくらいの大きさで、全身赤毛、五本指一本爪、マムシのような歯、頭は扁平で、河童のような姿の妖怪
九州地方を中心に多くの地域で、河童が秋になって山に入ると山童になると伝えられている。
河童と山童は呼び名だけでなく、体の特徴なども変わってしまう、お互いは異質の存在と考えたほうが良いが、变化の様子を目撃すると祟りにあって病気になるため、どうやって変身するかはよくわかっていない
山童の好物のはったい(米や麦を煎り、焦がしたもの)を持っていく約束をすると、昼寝する間に仕事を済ましてくれるそう
河童同様、いたずら好き

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紀伊のカシャボと同じく、河童が山に入って变化する妖怪です。
九州山地も、紀伊山地も同じような地形となっているうえ、妖怪も同じような話があるなんで面白いですね。四国山地には似た妖怪はいないのでしょうか?

先に脱線してしまいましたが、四国には河童に該当する「猿猴(えんこう)」がおり、「シバテン」が旧暦六月六日の祇園の日に川に入って猿猴になるそうです。やはりいたか!
さらに山口県の萩でも、タキワロという河童が棲んでおり、山に3年、川に3年棲むと猿猴に化けるそう。紀伊山地九州山地四国山地中国山地と類似する地形に、類似する妖怪話があることは大変に興味深いですね。なおタキワロは、雁木小僧のモデルで・・・・と閑話休題

山童はテキストには書かれてませんが、一つ目の妖怪みたいですね。
江戸時代、北斎季親の化け物尽くし絵巻に描かれています。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiGazouCard/U426_nichibunken_0052_0018_0000.html

データベース検索では、「山童」で31件ヒットしました。
河童の記載もあるものに絞ると、9つありました。
31件中、熊本南部、鹿児島北部、宮崎が過半数を締めていました。
ほか、大分が2件、高知が1件、長野が1件(これは狢がタイトルのため、飯綱のムジナの姿の一つを表しているだけ出ると思うので、除外していいと思います)でした。
そのあたりの地図を眺めると、高千穂やえびの高原、霧島連峰あたりになり、球磨川が大きな川で目立っています。

文献の場所を細かく見ていくと、
宮崎県延岡市熊本県八代市熊本県人吉市、宮崎県西米良村熊本市、鹿児島県薩摩川内市天辰町、と、やや点在するときもあるが、概ね西米良村(にしめらそん)を中心に話は広がっているようです。

西米良村の市房山なんてもうもろに山童が出そうな雰囲気です。

市房山
https://maps.app.goo.gl/2kcuV8a75MawjqkT6

天草の竜ケ岳町とぶっ飛んでいるものもある。もしかして山童が河童のうちに球磨川下りを決め込み、海を渡って棲んだのだろうか?
奄美大島名瀬市にぶっ飛んでいるのもある。南九州は想像する以上に人の動きが大きかったのかもしれない。

西米良村近くの大きな川といえば、宮崎川に東に伸び、西都に抜けていく一ノ瀬川か、
西へ人吉や八代に向かい、天草へ向かっていく球磨川かになる。おそらく、話も多く残されているため、基本的には山童はそっち方面に多かったのではないかと想像します。分布はおそらくそのような形でしょうか。

特にオモチロイと感じたこ話は、勝手に夜中何匹もお風呂に来て、湯の水が油でドロドロ、臭くてたまらなくなるようです。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/2200004.shtml

見た目は、テキストでは三、四歳と書かれてますが、和漢三才図会などの文献では10歳くらいの姿と書かれることが多いようです。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/3200079.shtml

こっちでは赤ん坊、酔っ払い、知恵遅れに見えると書かれてます。うん、関連性がない3つが並んでますね。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/0570077.shtml

3歳くらいというと、100センチ足らず、体重13キロくらいで、幼稚園年少くらいですが、10歳くらいというともう136センチくらい、体重30キロと、しっかり大きいです。何匹もいるとか、組離れしたとか書かれてますから、もしかしたら山童は姿形が成長していく感じなのかもしれませんね。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/2180225.shtml
https://www.suku-noppo.jp/data/average_height_boy_10.html

外見については、1954年の熊本県民族誌でまとめられており、割合しっかりとしたイメージは定着していたのかなと想像します。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1720250.shtml

しかし、五本指一本爪とはどういうものでしょう?一本しかない熊手のようなイメージでしょうか。アイアイの手みたいな感じかなあ。
http://www.alpacapacas.com/archives/364

はったいは、麦を炒って粉にした、きな粉のようなものでしょうか。ここで、はっきりとまずいと言われてますが、山童にとってはお菓子で、ごちそうなんでしょうね。
http://www.ermjp.com/dandan/boku/boku01.htm

お菓子のご褒美がもらえるから、しっかりと手伝いをしてくれることもある。可愛らしいイメージが湧いてきました。臭いけど。
もちろん、約束と違うものを用意しては、妖怪ですから、いけません。激怒されます。妖怪に激怒されるなんて生きた心地がしません。

変化を見ては行けないというのも、禁忌でよくあるパターンですね。山の神に近いものがあるのでしょうか?

【まとめ】
山童は(テキストでは)三、四歳くらいの大きさで、全身赤毛に五本指一本爪、マムシのような歯に頭は扁平
九州地方で、秋になると河童が山に入って山童となる
変化の様子を目撃すると祟られて病気になる
好物ははったいで、あげると約束すれば昼寝している間に仕事を手伝ってくれる
いたずら好き

カシャボ

カシャボ
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ウィキペディアより画像引用
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9C


紀伊和歌山県三重県

紀伊の山奥にいたとされる妖怪。
紀州には吉野川をはじめする川があるが、そこに棲んでいる河童をドンガス、ガオロなど、いろいろな呼び名があった。
そして、河童が冬になって山奥に入るとカシャボという妖怪になると言われ、これが時々、民家にもやってくるらしい。
頭は芥子坊主、青い衣を着た六、七歳くらいの子どもの姿で、家の戸口に灰をまいておくと、水鳥のような足跡を残すので、カシャボが来たことがわかる。頭を振ると、ガチャガチャ鳴るそうである。
一見、害がなさそうだが、つないでいた馬を隠したり、牛によだれをつけて病気にするなど、牛馬に害を加えるとも言われている。ときには家の外で石を打ちつけ、来たことを知らせるなど、河童同様、いたずら好きの印象が強い。

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吉野川は、和歌山では紀の川とも呼ばれ、奈良県の大台ケ原を源流とする、延長136キロの壮大な川です。
http://www.city.wakayama.wakayama.jp/shisei/1009206/1009399/1002807.html

カシャボは、紀伊の山奥に棲む妖怪とテキストに取り扱われてますが、もし吉野川周辺なら、紀伊も北部、大阪や奈良寄りになります。紀伊半島は広大なので、北と南では紀氏と熊野氏、紀伊国牟婁郡でかなり文化や風土も違うので、分けたい気持ちになります。

そういうわけで、分布を調べるため、
怪奇・妖怪伝承データベースで検索してみました。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB/search.html

すると、「カシャンボ」で16件の文献がヒットしました。
田辺市西牟婁郡大塔村みなべ町日高郡、本宮町、と出てきます。いずれも和歌山県南部です。

テキストの、紀州には吉野川を始めとする川がある、という文章とカシャボを引き寄せて読んでしまいました。なので、カシャボは吉野川にいるのかと早合点しそうでした。
しかしテキストの意味するところは、
紀州には吉野川を始めとする川がたくさんあること
紀州の川にはカシャボがいること
の2つの文であり、分布から考察するとカシャボが紀の川に出たとはされていないように思います。

また、大塔村の文献がありますが、これは奈良県大塔村ではなく、和歌山県田辺市大塔村であり、やはり、カシャボは牟婁郡の妖怪と考えて良さそうです。

河童が山に入ってカシャボとなる点は共通しているので、そのような妖怪と思って大丈夫に思います。ただ、河童の呼び名がドンガス、ガオロと別れており、細かく考えると地域差による呼び名と、カシャボの元の姿に違いを見いだせると思います。牟婁郡の醍醐味を大変に満喫できると思います。が、今回はバッサリと切り捨てて、カシャボに焦点を当てて考えていきます。

カシャボは、基本的にはテキスト通り、いたずらをする妖怪で、命をとったりするほどの危害は加えないようです。ただ夕方かくれんぼをすると、カシャンボにさらわれるとはいわれているようです。
その姿は、毛むくじゃらの人などとは記載されてますが、テキストのように、芥子坊主、六、七歳くらい、青い衣という言葉は見つかりません。
青い衣の出典は、江戸時代の作者不明な方の化け物尽くし絵巻からきているようです。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E5%8C%96%E3%81%91%E7%89%A9%E5%B0%BD%E3%81%8F%E3%81%97%E7%B5%B5%E5%B7%BB

ただカシャボは青い衣を着ているから青く塗ったとする以外にも、江戸時代のことですから、他にも青い衣の妖怪を描いているため、塗料の無駄を避けるためについでに青く塗ったという可能性も、僕の頭には去来します。

六、七歳の姿といいますと、身長120センチくらい、体重23キロくらいです。
https://www.glico.co.jp/boshi/futaba/no80/con03_03.html
小学一年生で、ピカピカのランドセルに大きさで負けそうになりながら背負ってるくらいの背丈です。
そんな子が山で突然現れたら。不気味ですねぇ。

データベースの中で、特にオモチロイ!と感じたものは2つありました。
ひとつは、一本だたらとまざってしまっているもの。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/2180167.shtml

もうひとつは、シシャンボの葉をくれるというもの。
http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiCard/1460996.shtml

妖怪から食べ物をもらえるとは、大変興奮しますね。
なおこのシシャンボ、実在の植物のようです。
https://www.uekipedia.jp/%E5%B8%B8%E7%B7%91%E5%BA%83%E8%91%89%E6%A8%B9-%E3%82%B5%E8%A1%8C/%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%B3%E3%83%9C/?mobile=1

和歌山でも分布しており、和製ブルーベリーとも呼ばれ、実を食べることも多かったことが想像されます。
http://zasshonokuma.web.fc2.com/sagyo/si/shashanbo/shashanbo.html

ただカシャボがくれるのは、シシャンボの実ではなく葉っぱなので、はてさて、親切心なのかいたずらなのか・・・。ちなみにブルーベリーの葉っぱは固くて食べるには適さないと感じました。(実体験)

未だに妖怪は和歌山で信じられており、平成16年、2004年に地元の新聞でも報道されています。

カシャボ、または一本だたらの足跡と思われるもの
https://www.wakayama-u.ac.jp/news/2017041900013/

【まとめ】
カシャボは、和歌山(紀伊)の妖怪
河童のドンガス、ガオロが冬になると山に入り、カシャボとなった
頭は芥子坊主、六、七歳の姿で青い衣を着ている。
頭を振るとガチャガチャ音がする
戸口に灰をまいておくと、水鳥のような足跡が残り、カシャボがきていたことがわかる
家の外で石を打ち付け、来たことを知らせるなどいたずら好きの様子
一見害はなさそうだが、馬を隠したり、牛によだれをつけて病気にするなど、家畜に害をなすことがある

はじまり

妖怪や民俗学に世界に興味を持ったのは、振り返ると5歳のときだと思います。

親に連れられ、七五三を祝うため、神社で祝詞を上げてもらったとき、祝詞になんとも言えない面白さを感じたのが始まりでした。
独特の節で、かしこみかしこみまうす、と神々に述べているのが神々しく、また日常から離れた世界を感じさせ、どうもこの世界にはナニモノかがいるぞ、と感じました。

家に帰り、感じたことを親に伝えようとしましたが、両親は不信のものなので、祝詞中に神主が咳き込んだことや、独特の言い回しを面白おかしく真似ていました。はあ、儀式というのはこうやって笑うものなのかなあ。坊主チャカポコとか言うもんなあ、と調子を合わせたのを思い出します。

けれどもそのときに触れた感覚が、その後の神話世界や仏教的価値観、そして民俗学や妖怪への興味の起源だったと感じています。


参考:
ごんねぎ、祝詞の教室
https://www.google.com/amp/s/gamp.ameblo.jp/shinkawa-koutai/entry-10219439538.html